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20年ぶりにデザインを刷新した新紙幣が7月3日から流通する。物価高で財布のひもがきつくなる中、新紙幣の発行は気分一新への期待を抱かせよう。旧紙幣からの移行を混乱なく進めていきたい。
一万円札の渋沢栄一、五千円札の津田梅子、千円札の北里柴三郎はそれぞれ資本主義、女性教育、医療の礎を築いた。その功績への理解を深め、今を生きる日本人が目指すべき姿を考える契機とするのも有益である。
令和6年度には計29・5億枚の新紙幣を発行する計画だ。最新の偽造防止技術を駆使した新紙幣への対応ではATMや券売機、両替機などの更新が必要となる。機器メーカーにとっては特需であり、それが経済を押し上げる効果も指摘される。
ただし、機器を設置する側にとっては多大な負担だ。銀行や鉄道などと異なり、飲食店の券売機や飲料の自動販売機などでは新紙幣対応をまだ終えていないところも少なくない。
コストを考慮すれば、個々の経営判断で対応にばらつきが出るのはやむを得ない面もあろうが、新紙幣の使い勝手が悪くなるようでは元も子もない。一部自治体で設備更新の費用を補助する動きもある。できるだけ早期に新紙幣に対応できるよう官民で万全を尽くしてほしい。
新紙幣発行に便乗した詐欺が横行する恐れもある。旧紙幣は使えなくなるとの噓をつき、タンス預金を新紙幣に交換する名目でだまし取る手口などが想定される。警戒を強めたい。
日本は元来、現金志向が強くキャッシュレス決済が遅れていた。だが、最近は政府の後押しもあり、その比率は4割近くに上昇した。さらに政府・日銀は電子データの形で発行する中央銀行デジタル通貨の導入の是非についても検討している。
決済や通貨を巡る環境が、デジタル技術の高度化と相まって急変していることに対応すべきなのは当然だ。だからといって紙幣ならではの価値を過小に評価するのは適切ではない。
日本で現金志向が強いのは外国よりも治安が良く、盗難の危険性が低いためである。デジタルに不慣れな人や、カードでの浪費を避けるため現金での堅実な決済を優先する人もいる。デジタル社会の今だからこそ、紙幣に備わる信頼性や安心感についても再認識しておきたい。
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2024年7月3日付産経新聞【主張】を転載しています